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京都地方裁判所 昭和27年(行)17号・昭27年(行)10号 判決

原告 吉村幸吉

被告 京都府知事

第一〇号事件補助参加人 井上すゑ 外四名

第一七号事件補助参加人 安田稠

一、主  文

被告が昭和二十六年十二月二十七日別紙第一目録記載の土地建物についてなした買収及び売渡取消処分を取消す。

原告の昭和二十七年(行)第一七号事件の請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告との間に生じた部分はこれを二分しその一を原告の負担、その余を被告の負担とし、参加によつて生じた部分もこれを二分し、その一を原告の負担、その余を昭和二十七年(行)第一〇号事件の被告補助参加人等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、昭和二十七年(行)第一〇号事件につき、「被告が昭和二十六年十二月二十七日別紙第一目録の土地建物についてなした買収及び売渡取消処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を、昭和二十七年(行)第一七号事件につき「被告が昭和二十七年五月二十三日別紙第二目録記載の土地建物についてなした買収及び売渡取消処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決をそれぞれ求め、その請求の原因として、

別紙第一目録記載の土地建物(以下甲土地建物と言う)は自作農創設別措置法(以下自創法と言う)第十五条第九条により昭和二十三年十二月二日被告が訴外井上源太郎(昭和二十七年(行)第一〇号事件(以下甲事件と言う)被告補助参加人等の先代)から買収し同法第二十九条第二十条により同日被告より原告に売渡されたものであるが、訴外右京区農地委員会は昭和二十六年三月三日右土地建物に対する買収及び売渡計画を取消し、訴外京都府農地委員会は同年五月二十八日これを承認し、更に被告は右承認に基き同年十二月二十七日右土地建物につきさきになした買収及び売渡処分を取消し、而して右取消処分の通知は同月二十八日原告に到達した。又別紙第二目録記載の土地建物(以下乙土地建物と言う)も同じく自創法第十五条第九条により昭和二十四年七月二日被告が昭和二十七年(行)第一七号事件(以下乙事件と言う)被告補助参加人安田稠より買収し同法第二十九条第二十条により同日被告より原告に売渡されたものであるが訴外右京区農地委員会は昭和二十六年三月頃右土地建物に対する買収及び売渡計画を取消し、訴外京都府農地委員会は昭和二十七年四月二十八日これを承認し、更に被告は右承認に基き同年五月二日右土地建物につきさきになした買収及び売渡処分を取消し、右取消処分は同月二十三日原告に通知せられた。しかしながら前記各買収及び売渡処分は適法になされたもので何らの瑕疵もなく、又甲土地建物に対する買収及び売渡処分については処分後関係人から適法な異議申立、訴願、訴訟等もなく三年を経過し、乙土地建物に対する買収及び売渡処分については処分後被買収者たる乙事件被告補助参加人からは何らの不服申立もなくたゞ同人の父である訴外安田満次郎から異議申立及び訴願がなされたがいずれも理由なしとして棄却されて二年を経過した後、各買収及び売渡処分が取消されたのであつて、かゝる取消処分は原告の既得権を侵害するもので裁量権の濫用と謂わねばならない。一般に国民の既得権を侵害するような行政処分の取消は当該行政処分に瑕疵あること明白な場合以外は許されないものと解すべく、敢えてこれをすることは違法である。よつて被告のなした前記各取消処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第である、と述べ、被告及び被告補助参加人等の主張に対し自創法第四十七条の二は自創法に基く行政処分の取消、変更を求める訴訟についてその出訴期間の特例を定めたものであつて、自創法によつて既になされた買収及び売渡の取消処分の取消を求める本訴についてはその適用がない、又被告の主張による自創法第十五条第二項第三号は本件各土地建物に対する買収及び売渡処分がなされた後に行はれた同法の改正によつて追加されたものであるから、右規定に違反するとして右買収及び売渡処分を取消すことは法律不遡及の原則から見て許されない、なお乙土地建物に対する買収及び売渡処分につき被買収者たる乙事件被告補助参加人から不服申立のなかつた事情についてはこれを認めると附演した。(立証省略)

被告指定代理人並びに被告補助参加人等代理人は、それぞれ本案前の答弁として「本件各訴を却下する」との判決を求め、甲土地建物に対する買収及び売渡取消処分の通知は昭和二十六年十二月二十八日に乙土地建物に対する買収及び売渡取消処分の通知は昭和二十七年五月二十三日に各原告に到達しており前者に対する訴の提起されたのは昭和二十七年六月二十八日、後者に対する訴の提起されたのは同年十一月二十一日であるから右各訴は自創法第四十七条の二に定める出訴期間経過後の訴であつて、不適法として却下を免れない、と述べ、本案に対する答弁として「原告の各請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、原告主張の事実中、原告主張の日に甲乙両土地建物に対する買収及び売渡並びにそれらの取消の各処分があつたこと甲土地建物に対する買収及び売渡処分については関係人から何らの不服申立もなかつたこと、乙土地建物に対する買収及び売渡処分についてはその前提となる買収計画に対し訴外安田満次郎から異議申立訴願及び訴訟がなされたのみで被買収者たる乙事件被告補助参加人からは何らの不服申立もなかつたことはいずれもこれを認める、と述べ、右各取消処分を違法とする原告の主張に対し被告指定代理人は、原告主張の各買収処分は自創法第十五条第二項第三号に言う「宅地又は建物の位置、環境及び構造により買収を不適当とする場合」に該当する。即ち甲乙両土地建物の位置は原告が自創法第十六条により買受けた農地の中その大部分が存在する右京区竜安寺玉津芝及び同塔の下町から約一粁の距離を有し、その間は住宅街及び商店街を通らねばならない状態であつて、原告が既に竜安寺の農地の農業経営のために約四坪の農舎を建てていることからしても右両土地建物が原告の農業経営のために必要欠くべからざるものでないことが明かである。又右両土地建物の環境についてみるに右両土地建物は京福電鉄嵐山線の沿線御室仁和寺に近い住宅街に存在し、附近は殆んど一般住宅であつて農家らしきものは見当らない状態である。

更に右各建物の構造についてみるに甲建物は木造瓦葺の一般専用住宅であつて収納作業等の営農に必要な併用部分全然なく、南は隣家と壁一重で接し、建物の表である東側は建物敷地と道路とが接着している状態にあり、乙建物も同じく木造瓦葺で乙事件の被告補助参加人安田稠の住宅の一部と看做される別棟住宅であつて右安田の住宅の裏側に位し、これ又収納作業等の営農に必要な併用部分は全然ない。よつて前記買収処分は当然無効又は仮りにしからずとするも取消し得べきものであり、これを前提とする各売渡処分も同様であるから、被告において右各買収及び売渡処分を取消しても何ら違法ではない。又右各取消処分は甲土地建物については旧所有者の相続人たる甲事件の被告補助参加人等に、乙土地建物については旧所有者たる乙事件の被告補助参加人に、各その本来有すべき権利を回復させることになるのであるから原告の既得権を侵害したとの主張は理由がない。なお乙土地建物に対する買収計画については前記安田満次郎から不服申立があつたに過ぎず、被買収者たる乙事件の被告補助参加人からは何らの不服申立もなかつたのであるが、その事情は左の如くである。即ち訴外右京区農地委員会は当初右土地建物の所有者を右安田満次郎と誤認し同人を名宛人として買収計画を樹立したところ、後日右過誤を発見したので買収計画の名宛人を右参加人に訂正し、被告も訂正された右参加人宛に買収令書を交付したものである。しかして買収計画樹立当初の名宛人が安田満次郎であつたため同人から右買収計画に対し自創法第十五条第二項違反等を理由として異議申立訴願及び右訴願棄却の裁決の取消を求める訴訟が提起されたのであるが、右訴訟の被告京都府農地委員会は右訴訟中乙事件被告補助参加人が右土地建物の所有者であることを発見し、且右京区農地委員会において前記の訂正があつたことを知らなかつたので、右の理由で昭和二十六年一月三十一日右買収計画を取消した。ところがその後更に右京区農地委員会における右訂正の事実が判明したので、同委員会が右買収計画を改めて自創法第十五条第二項第三号違反の理由で取消し、被告も右買収計画の取消に基き本件乙土地建物に対する買収処分を取消したものである。と述べ、

被告補助参加人等代理人は、行政処分は公定力を有するが確定力を有するものではないから行政処分に瑕疵がある以上行政庁は何時でもこれを取消し得るものと解すべく、原告主張の各買収処分には自創法第十五条第二項第三号に違反した瑕疵があるから右各買収処分及びこれを前提とする各売渡処分を取消しても何ら違法ではない。なお自創法右条項は原告主張の各買収及び売渡処分がなされて後昭和二十四年法律第二百十五号による自創法第十五条の改正によつて追加されたものであるが、右改正は改正前の規定に含まれた当然の趣旨を明文を以て表現したに過ぎず右改正前においても買収の適否判定に当つて右条項に規定する事由を斟酌すべきであるから右条項に違反した処分を取消すことは何ら法律不遡及の原則に違反するものではない。又甲土地建物に対する買収及び売渡処分については何らの不服申立もなかつたけれども、甲事件被告補助参加人等は昭和二十六年三月頃右土地建物に対する買収計画につき右京区農地委員会にその取消を嘆願し、同委員会は右嘆願を訴願法第八条第三項に規定する宥恕すべき事由ありと認めてこれを受理し、右嘆願に基き取消したものであり、乙土地建物に対する買収計画については乙事件被告補助参加人の父である訴外安田満次郎から法定期間内に異議申立及び訴願をなしたが、いずれも棄却されたので京都地方裁判所に対し右訴願棄却の裁決の取消を求める訴を提起したところ、昭和二十六年二月七日の口頭弁論期日において、右事件の被告京都府農地委員会の代理人より右買収計画は同年一月三十一日府農地委員会において取消されたとの陳述があつたので、右訴を取下げたのであるから右取消処分が買収及び売渡処分後数年経過した後のものであることを理由としてこれを違法とする原告の主張も失当である、又原告は本来瑕疵ある行政処分により所有権を取得したものであるから右処分の取消によりこれを喪失しても既得権の侵害となるものではない、と述べた。(立証省略)

三、理  由

甲土地建物はもと甲事件被告補助参加人等の先代井上源太郎の所有であつて昭和二十三年十二月二日被告が自創法第十五条第九条により買収し、同日同法第二十九条第二十条により被告より原告に売渡されたものであり、乙土地建物はもと乙事件被告補助参加人安田稠の所有であつて昭和二十四年七月二日被告が同じく自創法第十五条第九条により買収し、同日同法第二十九条第二十条により被告より原告に売渡されたものであるが、被告が昭和二十六年十二月二十七日前者に対する買収及び売渡処分を、昭和二十七年五月二日後者に対する買収及び売渡処分を、いずれも自創法第十五条第二項第三号に違反するとして取消したことは当事者間に争がない。

被告及び被告補助参加人等は本件各訴は自創法第四十七条の二に定める出訴期間を徒過した不適法なものであると主張するので先づこの点について検討する。自創法第四十七条の二は自創法に基く行政庁の処分に対する取消変更の訴について出訴期間の特例を定めたものと解すべきところ、原告は本件各訴において被告のなした前記二つの買収及び売渡取消処分の取消を求めると謂うにあり、右買収及び売渡取消処分の根拠について自創法上何ら特別の規定がない以上右は自創法に基くものでなく専ら行政行為の一般的法理に基くものと解すべきであるから右取消処分の取消を求める訴の出訴期間は行政事件訴訟特例法第五条の定めるところに従うべきものと解するを相当とする、しかるところ、甲土地建物に対する買収及び売渡取消処分が原告に通知されたのは昭和二十六年十二月二十八日乙土地建物に対する買収及び売渡取消処分のそれは昭和二十七年五月二十三日であることは当事者間に争なく、前者に対する訴の提起されたのは昭和二十七年六月二十八日、後者のそれは同年十一月二十一日であることは記録上明かであるから、本件各訴は原告が右各取消処分を知つた日からそれぞれ六箇月以内に提起されたものと謂うべきであつて、これを不適法とする右主張は採用することができない。よつて進んで本案について審究するに、原告は本件各買収及び売渡取消処分は原告の既得権を侵害するから許されないと主張し、被告及び被告補助参加人等は行政処分は確定力を有しないから該処分に法律上の瑕疵があればいつでもこれを取消し得る。又原告の主張する既得権は原告がもともと瑕疵ある行政処分によつて取得したものであるから右処分の取消によりこれを喪失しても何ら既得権の侵害とはならないと主張する。思うに知事が買収した宅地建物等を都道府県農地委員会の承認を得た売渡計画により売渡通知書を交付してなす売渡処分は、それによつて直ちに私人に該宅地建物の所有権を取得させる行政処分であるから後日右売渡処分又はその前提となる買収処分を取消すことは売渡を受けたものの既得の権利を剥奪する結果となる。従つてかような行政処分は該処分の効力を異議申立、訴願、訴訟等の通常の不服申立によつて争い得る間―所謂不可争力を生じない間―は国民の既得権が右適法な不服申立によつて覆えされる可能性があるという意味においてまだ浮動的であるから、該行政処分に法律上の瑕疵があればこれを取消し得るものと解すべきであるが、右行政処分について法律に定められた期間内に不服申立がなされず該行政処分が所謂不可争力を有するに至つた以上は、その処分が当然無効であり且それを宣言する意味で取消す場合、又は処分に無効原因に当らない瑕疵があるに過ぎないときは国民の既得権を侵害してもなお且これを正当化するだけの強い公益上の必要性が存在する場合の外はこれを取消し得ないものと解するのが相当である。

よつて先づ甲土地建物に対する買収及び売渡取消処分の適否について審究するに、甲土地建物に対する買収及び売渡処分については法定期間内に関係人特に従前の所有者たる甲事件被告補助参加人等又はその先代から何らの不服申立もなかつたことは被告及び甲事件被告補助参加人等の争わないところであるから、右各処分はその取消された当時において既に所謂不可争力を生じていたものと謂わねばならない。尤も甲事件被告補助参加人等は右買収及び売渡処分後二年余を経過した昭和二十六年三月頃甲土地建物に対する買収計画につき訴外右京区農地委員会に対しその取消を嘆願し、同委員会は訴願法第八条第三項に所謂宥恕すべき事由ありと認めて右嘆願を受理した上これに基き右買収計画を取消した旨主張するけれども、前記買収及び売渡処分又はその前提となる買収計画等について所謂不可争力が生じた以上は、行政庁が自由裁量により右のような法定期間徒過後既に約三年も経過した訴願又は異議申立を受理して国民の既得権を侵害する結果となるような行政処分の取消をすること自体が前段説示の制限に服すると解するのであるから右主張も理由がない。ところで次に被告は甲土地建物に対する買収処分は当然無効である旨主張し、当然無効の行政処分はこれを宣言する意味で取消し得るものであること前段説示のとおりであるが、行政処分が当然無効であるためにはその処分に重大且明白な瑕疵が存在することが必要であると解すべきところ、被告がその根拠として主張する自創法第十五条第二項第三号の規定は右土地建物に対する買収及び売渡処分がなされて後自創法の改正によつて追加されたものであること、(尤も右改正は従前の規定に含まれた当然の趣旨を明確にしたに過ぎないことについては後述するところである)右条項に規定する事情の存否についてはその認定が頗る困難であること、又しかるが故に被告も一旦は相当と認めて右土地建物を買収したものであること等を考え合せると、仮りに右甲土地建物に対する買収処分に前示自創法第十五条第二項第三号に違反する瑕疵があるとしても、その瑕疵は必ずしも明白なものとは言い難いから被告の右主張も亦理由がない。そこで次に右各取消処分につき原告の既得権の侵害を正当化するだけの公益上の必要性があるか否かについて考えるに自創法が今次の農地改革に当り農地の解放に附帯し宅地建物の解放を企図した所以のものは自作農となつたものの住居等の安定にあるものと解すべきことは同法第一条の規定に徴して明かであり、しかも同法第四十七条の二は右のような耕作者の地位安定という目的達成のために農地及び宅地建物等の解放の法的効果を可及的迅速に確定させるべく出訴期間の特例を定めているのである。のみならず原告本人尋問並びに検証の各結果によれば甲建物には現在原告方において主として農業に従事している原告及びその妻が居住し、階下の土間を農具及び精米等の置場に中二階を肥料及び藁の置場に使用していることが認められる。(但しかゝる事情の存在が直ちに自創法第十五条の買収の要件を満たすと言うわけではない)従つてかりに右甲土地建物が自創法第十五条第二項第三号に言う宅地又は建物の位置環境及び構造等により買収を不適当とする場合に該当するとしても、右処分について関係人から不服申立もなく不可争力が生ずるに至つた後においては、右のような自創法の目的から見て右原告の既得の権利を覆えしてまで右買収及び売渡処分を取消すだけの強い公益上の必要性があるとは到底認められないのであつて、本件においては被告が右のような公益上の必要性について何らの主張立証もなさない以上、右取消処分は爾余の点について判断をなすまでもなく既にこの点において違法の瑕疵が存するものと謂わざるを得ない。

よつて更に進んで乙土地建物に対する買収及び売渡取消処分の適否について審按するに右土地建物に対する買収及び売渡処分については被買収者たる乙事件被告補助参加人から何らの不服申立もなかつたことは当事者間に争のないところであるから右各処分も形式的にはその取消当時において既に所謂不可争力を生じていたものと謂うべきである。しかしながら又一方右土地建物に対する買収計画は訴外右京区農地委員会が当初誤つて右参加人の父である訴外安田満次郎を所有者としてこれに宛てなしたところ、後日右過誤を発見したので名宛人を真の所有者である右参加人に訂正し、被告も同参加人宛に買収令書を交付したこと、しかして右買収計画に対してはその樹立当時の名宛人が前記のように安田満次郎であつたため、同人から自創法第十五条第二項違反等を理由として異議申立、訴願及び右訴願棄却の裁決の取消を求める行政訴訟が提起されたのであるが、右訴訟の被告京都府農地委員会が右訴訟中右名宛人の誤りに気附き且右京区農地委員会において前記の訂正があつたことを知らなかつたため右形式的理由で昭和二十六年一月三十一日に右買収計画を取消し、同委員会代理人が右事件の同年二月七日の口頭弁論期日において右取消決議があつた旨を陳述したので前記安田満次郎が右訴訟を取り下げたこと、ところがその後右京区農地委員会における右訂正の事実が判明したので同委員会が更に改めて右買収計画を自創法第十五条第二項第三号違反の理由で取消しこれに基き被告も本件乙土地建物に対する買収及び売渡処分を取消したことはいずれも当事者間に争のないところである。して見みると右買収計画については形式的には後日名宛人が右参加人に訂正されることによつて従前の安田満次郎宛の買収計画が取消され右参加人宛の別個の買収計画が存在するに至つたものと見るべきであらうが、右各名宛人は互に親子の関係にあり且全く同一の土地建物に対するものであることを考えると実質的には同一の買収計画であると解すべきものであるから訴外安田満次郎が前記理由に基き自己宛になされた買収計画の効力を争うことは畢竟右参加人宛の買収計画の効力を争つていたことに帰着する、しかして前記訴訟中になされた京都府農地委員会の取消決議は前記訂正の事実を知らなかつたが故に名宛人の誤りという形式的理由のみを以てなされているが右取消決議はそれによつて乙土地建物に対する買収計画が全く存在しない結果となることを予想していたのであり、その意味ではその後右京区農地委員会においてなされた取消決議は後日右訂正の事実が判明したので右京都府農地委員会における取消決議の意図を確認する意味でなされたものとも考えられる。しからば乙土地建物に対する買収及び売渡処分については実質的に言つてその前提となるべき買収計画が関係人よりの不服申立によつてその効力を争われている間に取消されたものと認めるのが相当であるから右各処分は前記の如く法律上の瑕疵があればこれを取消し得るものと解するを相当とする。

そこで右買収処分に被告主張のような瑕疵があるか否かを考えるに原告は被告の主張する自創法第十五条第二項第三号は右買収処分後に行われた自創法の改正によつて追加されたものであるから、爾後において右規定を適用することは法律不遡及の原則に違反すると主張する。なるほど自創法第十五条が第二項を追加して宅地建物買収の除外事由を明定したのは右買収処分後に行われた同条の改正に基くものではあるが右改正は従前の同条第一項に含まれた当然の趣旨を明文を以て明確にしたに過ぎず、同条の趣旨は右改正の前後を問わず異るものではないと解するを相当とするから、原告の右主張は採用に値しない。しかして原告本人尋問並びに検証の各結果を綜合すれば右乙土地建物は京福電鉄北野線御室駅の東南約二町同妙心寺駅の西南約三町余の地点に存在し、原告の耕作する農地は右土地建物の東北側に乙事件被告補助参加人宅を隔てて畑約四畝、右土地建物から一町余離れた一条田町に田約一反四畝、五町余離れた竜安寺塔の下町及び竜安寺玉津芝に田約一反七畝及び畑約一反八畝の各自作地が、上京区大将軍一条町に畑約七畝の小作地がそれぞれ存在すること、右土地建物の附近は田畑が点在する外は凡て住宅風の人家が立並ぶ住宅街であつて、右土地建物の東側には空地を隔てて道路に面し北より乙事件被告補助参加人宅、甲建物及びその隣家が互に相接して存在すること、乙土地上には乙建物及び右建物の裏手にあたる西側に鶏舎、南側に便所がそれぞれ建築せられ乙建物の東側及び西側はそれぞれ空地となつていること、乙建物は前記乙事件被告補助参加人宅の別棟住宅とも見られる木造瓦葺二階建の住宅であつて、階下には二畳、三畳、六畳の三間及び約三坪半、約二坪、約三坪の各土間が存在し、階上には二畳、六畳の二間及び約二坪半の畳の敷かれていない部屋が存在すること、右建物の階上には醸造店に通勤する原告の長男が、階下には銀行に通勤する三女、家事手伝中の四女及び通学中の次男、三男が寝起していることが認められる。そして以上認定の事実を綜合して考えれば、右土地建物はその位置、環境、構造より見て農業用としてより住居用としての利用価値の方がはるかに高いものと断ぜざるを得ないから、これを農業用施設として買収することは不適当と謂わねばならない。尤も右原告本人尋問及び検証の各結果によれば、原告は右建物の土間の部分を蔬菜及び藁肥料等の置場に、前記の空地を籾の干場にそれぞれ使用し、又現に右建物の土間の部分に農具等が若干置かれていることが認められるけれども、それは原告が現に農業を経営していることから当然生ずる現象であり、更に右原告本人尋問の結果から認められる如く原告が前記竜安寺玉津芝の農地に約四坪の野小屋を有し、原告の耕作地のうちその大半を占める同地及び竜安寺塔の下町所在の農地につきその耕作に必要とする農具の格納場所及びその収穫物の収納作業場として右野小屋を使用している事実から考えると、原告が右土地建物を現に若干農業用に使用しているという事実のみを以ては右土地建物が原告の農業経営上必要欠くべからざるものとはなし難い。しからば乙土地建物に対する買収処分には右自創法第十五条第二項第三号違反の瑕疵があり、右買収処分については法律上の瑕疵があれば行政庁において自ら取消し得ること既に説明の如くであるから右被告が買収処分及びこれを前提とする売渡処分を取消したことには何らの違法はないものと謂うべきである。

よつて甲土地建物に対する買収及び売渡取消処分は違法であるからその取消を求める原告の請求はこれを正当として認容すべく、乙土地建物に対する買収及び売渡取消処分には何らの違法がないからその取消を求める原告の請求はこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文、第九十四条後段を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 千葉実二 大西勝也)

(目録省略)

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